春秋座公演  坂下館納戸円舞

構成・演出 濱本達男
1979.6月7〜9日
於:早大6号館アトリエ

 納戸に巣食う虫の生態について
「さわると玉虫」という納戸に住む虫が居るという。
足が10本もあって、そのくせ歩く速度は極端にのろい。必死に動いても畳一枚を
横切るのに5分もかかるものだから、よく外敵にさらされてしまう。
そういう時、つまり「さわると玉虫」が、誰も居ない事を見定めて一目散に広大なる四畳半」をいっきに駆け抜けている最中。性悪な人間が鉛筆の先でつついたりすると、その虫は玉のように丸まってしまう。「さわると玉虫」たるゆえんである。
「さわると玉虫」という名は一地方の子ども達だけに通用する俗名であって、他にも「便所虫」「まるまる虫」「ワラジ虫」とか呼ばれていて、納戸に限らず日本中至る所に生息しているらしい。
この虫が身の危険を感じて、玉の状態になっている時、ケツの穴に己の頭をしっかり押し付けて10本の足を絡ませて縮こまって居る時、一体何を実感しているのか?
そのことが、演技というものを考える上での手がかりとして、今我々の劇団で問題になっている。
一人の役者は、隠れているつもりになっているのだといえば、いいや、むしろ積極的に石コロに化けているつもりに違いないという役者も居る。
死んだふりをしているのじゃないか?と誰かが言えば、いいや、本当にその瞬間は心肺機能は停止して(心、肺があれば)、死そのものの状態を生きているというのが正しい。などとカシマシイ事である。
この話題は、我々が劇団を結成して以来、といっても半年あまりだが、未だに飽きることなく続いている。それどころか、近頃益々熱狂的になってきた。「さわると玉虫」は何を食べているのか、交合の方法は?寝る時は玉になっているのか…。
最早、人前でさらし者になる役者のための手がかりとしてのたとえ話では済まなくなってしまった。
かくの上は「さわると玉虫」を捕獲し、つぶさに観察する以外に納まりが着かないのであるが如何せん
、あれ程子どもの頃目に付いた、のろまの「さわると玉虫」が一向に見つからない。
残念で仕方がない。

出演
日吉賀奈也  大平千晶  鈴木栄子  濱本達男

※ 去る3月「坂下館覚書顛末」にて旗を揚げました濱本興業では、今後末永く皆様の御贔屓を賜りますよう、より一層の精進を重ねる決意も新たに劇団名を「春秋座」と改め、あわせて同志を募ります。詳しくは文書にて事務所に連絡して下さい。

劇団 春秋座
板橋区徳丸1丁目22の16 みずほ荘